分け目を、職場の蛍光灯の下で見るようになった

平日午後2時、会社の会議室

気になりはじめたのは、会議室の真上にある蛍光灯がきっかけだった。

プロジェクターの前に立って、スライドを指しながら話しているとき、ふと視線を感じた気がした。正確には、誰かが自分の頭頂部を見ているような気がしただけで、実際には全員がスクリーンを見ていたと思う。でも、その瞬間から何かが変わった。トイレに立ったとき、手を洗いながら鏡を見て、少しだけ頭を傾けてみた。蛍光灯の光が真上から降ってくる角度で、分け目を確認するようになった。

家の洗面台の鏡では、そこまで気にならない。朝の自然光の中で見る自分の髪は、まあこんなものかと思える。でも職場の蛍光灯は容赦がない。あの白くて平たい光は、陰影をほとんど作らないまま頭皮を照らす。頭頂部の分け目が、普段より白く、広く見える。気のせいかもしれない。でも気のせいにしておくには、何度も同じことを繰り返している。


夜11時、自室のデスク

最初は分け方の問題だと思っていた。

少し左に寄せれば、右の分け目が目立たなくなる。右に寄せれば、左が自然に見える。そういう調整を、トイレのたびにやっていた。会議の前にも、昼休みにも。意識するようになってから、自分がどれほど頻繁にトイレの鏡を確認しているかに気づいて、少し嫌な気持ちになった。

これは分け方の問題じゃないかもしれない、と思ったのはいつごろだろう。明確な日付は覚えていないけれど、確かにある朝、「調整してもあまり変わらないな」と感じた瞬間があった。髪の量の問題なのか、生え際の後退なのか、それとも分け目自体が広がっているのか。自分では判断がつかなかった。

ただ、蛍光灯の下で頭皮が白く見える、という事実は変わらなかった。


薄毛には、いくつかの種類がある。

頭頂部の分け目が目立つようになるのは、男性型脱毛症——いわゆるAGAと呼ばれる状態の初期段階でよく見られるパターンだ。AGAはAndrogenetic Alopeciaの略で、男性ホルモンの一種であるジヒドロテストステロン(DHT)が毛根に作用して、髪の成長サイクルを短くしていく。成長期が短くなると、髪は太く長く育つ前に抜けてしまう。結果として、全体的に細く、短く、薄く見えるようになる。

分け目が広がったように見えるのは、必ずしも髪の本数が減ったからではなく、一本一本の髪が細くなって密度が下がっているせいである場合も多い。だから、抜け毛が急に増えたという実感がなくても、じわじわと進行することがある。蛍光灯の下でしか気になりにくいのは、そういう理由もあるかもしれない。

AGAは一般的に、放置すると進行する。進行速度は個人差が大きいが、20代後半から30代前半にかけて気になりはじめる人が多い。気づいたときにはすでに数年進んでいた、というケースも珍しくない。


「蛍光灯の下でしか気にならないなら、蛍光灯の下に行かなければいい」という冗談を、自分に言い聞かせたことがある。

でも、それは無理だ。職場にいる限り、会議室はあるし、コンビニの天井にも蛍光灯はある。電車のドア上の鏡にも光は当たる。生活の中に、あの角度からの光は至るところにある。

気になるということは、何かが変化しているということだ。変化に気づいた段階が、一番何かをできるタイミングかもしれない。そう思い始めている自分がいる。

まだ決断したわけじゃない。ただ、蛍光灯の下で鏡を確認するたびに、「いつまでこれをやり続けるんだろう」という気持ちが少しずつ大きくなっている。