抜け毛が増えたと気づいたのは、排水口を掃除したときだった
数字では測っていない。でも、確実に増えたとわかった。
浴室の排水口を掃除したとき、絡まっている髪の量が、以前と違うと感じた。以前も掃除のたびにそれなりの量があったはずだけれど、そのときは「こんなものか」と思って終わっていた。でもその日は、手を止めて、しばらくそれを見てしまった。
多い、と思った。測ったわけじゃない。比較対象があるわけでもない。ただ感覚として、「以前より多い」と思った。それは案外、正確な気づきだったかもしれない。
抜け毛は、毎日誰にでも起きている。
健康な状態でも、一日に50本から100本程度は自然に抜けるとされている。髪には成長期・退行期・休止期というサイクルがあり、休止期に入った毛は自然に脱落する。だから、排水口に髪が絡まること自体は正常だ。
問題は、そのサイクルが乱れているかどうかだ。AGAでは、ジヒドロテストステロン(DHT)が毛根に作用して成長期を短くする。成長期が短くなると、まだ細くて短い状態の髪が次々と抜けるようになる。結果として、本数が変わらなくても一本一本の髪が細く短くなり、全体的な密度が下がる。そして、抜け毛の量が体感として増えたように感じることがある。
排水口の感覚的な「増えた」は、こういう変化を示している可能性がある。数字で測れないからといって、無視していいわけじゃない。
気づきの場所が排水口だったことに、少し妙な気持ちになった。
鏡の前で「薄くなったかな」と思うのとは、何か違う。鏡の前は、自分が自分を見ようとしている場所だ。でも排水口は、別にそれを確認しようとして向かうわけじゃない。掃除という行為の途中で、意図せず現れる。
だから、否定しにくかった。「光の当たり方のせいかも」とも「今日はそう見えただけかも」とも言えない。実際にそこにある、手で触れた質量の話だ。
そのリアルさが、何かを動かした気がする。
掃除を終えて、浴室を出た後、スマホでいくつかのことを調べた。
一日にどれくらいの抜け毛が正常か。排水口の量で判断できるか。AGAはいつから始まるか。調べれば調べるほど、「自分の感覚は間違っていないかもしれない」という気持ちが強くなった。同時に、早めに動いた方がいいという情報も、複数の場所で目にした。
AGAは進行性だ。放置すると薄さは深まる。今の状態を維持すること、あるいは取り戻すことの難易度は、時間とともに上がっていく。排水口の髪の量が変わったと感じた今この瞬間が、何かを考え始めるタイミングとして、意外と正確なのかもしれない。
誰かに言うような話じゃないと思っていた。でも、排水口の掃除という小さな場面から始まった気づきが、今も頭のどこかに残っている。