10年後の自分を考えたとき、初めて「始める」という選択肢が浮かんだ
10年後の自分が、どんな場面にいるかを想像したことはあるだろうか。
仕事のこと、家族のこと、住む場所のこと——そういうことは何となく考えていても、髪のことは考えてこなかった。薄毛の話は「今」の悩みとして処理していて、10年後と結びつけて考えたことが、たぶんなかった。
それが変わったのは、ある日の夜、ぼんやりしているときだった。10年後の自分の具体的な場面を思い浮かべていて、そこに「髪」が入ってきた。もし今のまま進んだら、10年後の自分の頭はどうなっているだろう。父の写真と、自分の今の状態と、10年という時間。それが突然、ひとつの映像として浮かんだ。
そのとき、初めて「始める」という選択肢が頭の中に出てきた。
それまで「始める」が選択肢として存在していなかったのは、なぜだろう。
遺伝だから仕方ない、という諦めがあったのもある。でもそれだけじゃなく、今の自分にとって「急いでやる必要がある問題」として認識していなかった、という部分が大きかったと思う。今すぐ困っているわけじゃない。日常生活に支障があるわけじゃない。だから「いつかそのうち」という枠に入れていた。
でも10年後という時間軸が入った瞬間、「いつかそのうち」が「10年後には手遅れかもしれない」に変わった。
AGAは一般的に、放置すると進行する。進行のスピードは個人差があるが、何もしない10年と、対処した10年では、状態が大きく変わりうる。特に、毛根が完全にダメージを受けてしまう前の段階では、薬剤による維持・改善が有効な場合が多い。フィナステリドやデュタステリドといったDHT抑制薬や、ミノキシジルのような発毛促進薬は、早い段階で使い始める方が効果を出しやすいとされている。
「始める」という言葉は、なんとなく重かった。
治療を始める、というと、自分が病気だと認定するような感覚があった。でも、AGAは「病気」というより「ホルモンと遺伝子の組み合わせによる生理的な変化」に近い。それを医学的にケアすることは、他の健康管理と変わらない、と考えるようになった。
今はオンライン診療で、自宅にいたまま医師と話せる時代だ。クリニックの予約を取って、待合室で待って、という手間なく、スマホで問診に答えて診察を受けられる。薬も処方されれば郵送される。10年前と比べれば、ハードルが大幅に下がっている。
「始める」という言葉の重さは、主に自分の中の問題だったかもしれない。外側の手続き自体は、思っていたほど複雑じゃない。
10年後の自分が、その選択に感謝するかどうかは、まだわからない。
でも少なくとも、「あのとき考えた」という事実は残る。考えただけで何もしなかった10年後と、考えて何かを始めた10年後では、たぶん何かが違う。
「始める」という選択肢が浮かんだことを、まだ決断にはできていない。ただ、今まで一度も浮かんでこなかったその言葉が、はっきりと頭の中に現れたことは、何かの変化だと思っている。