妻が「換気しようか」と言う頻度が、今年から増えた

休日の昼、マンションのリビング

最初に気になったのは、冬の終わりごろだった。
休日の午後、部屋でぼんやりしていると、妻が「ちょっと換気しようか」と言いながら窓を開けた。寒い時期だったし、別段おかしなことでもない。

でも、それからも続いた。
週末の朝。夕食後のリビング。自分が帰宅して少し経ったころ。妻が「換気」と言う場面が、今年に入ってから増えた気がする。

今年から、ということは、去年まではそうでもなかった、ということだ。


マンションのリビングの窓が少し開いている

何かが変わったとすれば、考えられることはいくつかある。
部屋の湿度管理のためかもしれない。妻が健康に気を使うようになったのかもしれない。それとも——自分のにおいが、変わったのかもしれない。

妻に直接聞いてみたのは、ある夜のことだ。「最近よく換気するね」と、なるべく軽い調子で言ってみた。妻は少し間を置いて、「なんとなくね」と答えた。それ以上は聞けなかった。

「なんとなく」という言葉の中に、配慮が詰まっている気がした。


加齢臭は、40代を境に強くなりやすいとされている。
原因物質として知られるノネナールは、皮脂に含まれる脂肪酸が酸化・分解されることで生じる。この反応は年齢とともに進みやすくなり、特に皮脂の酸化が起こりやすい首の後ろや耳の周辺、背中などに濃く発生する傾向がある。

「去年まではそうでもなかった」と感じるのは、つまり変化が今年から目立ち始めたということかもしれない。
40代に入ったちょうど今ごろから、という時期と重なる。

加齢臭が自分ではわかりにくいのは、嗅覚の慣れという仕組みによるものだ。長く同じにおいにさらされていると、脳はそのにおいへの反応を鈍らせる。自分の体のにおいは、毎日ずっとそこにあるから、自分が最も気づきにくい。


妻が「換気しようか」と言う頻度が増えたのが、もし本当に自分のにおいのためだとしたら。
妻はずっと、直接言わないでいてくれているということになる。

それは優しさだと思う。でも、気づかないふりをして過ごすのは、その優しさに甘えているだけな気もした。

何かを変えることが、「換気しようか」という言葉の頻度を下げることにつながるかもしれない。それだけのことかもしれないけれど、それだけのことが、毎日を少し軽くする。


お風呂で使うものを変えた。洗い残しやすい箇所を意識するようにした。
劇的に何かが変わったわけではないし、妻が何かを言ったわけでもない。

ただ、最近「換気しようか」を聞かない週が続いている。
たまたまかもしれない。でも、続けることにした。