妻に「最近なんか違う」と言われた日、洗濯機のせいにした
「最近、洗濯物がなんか違う気がする」
妻が言ったのは、たたんだシャツを棚にしまっていたときだ。
どう違うのかは聞けなかった。なんとなくそのまま「洗濯機が古くなってきたのかも」と答えた。妻は「そうかもね」と言って、それ以上は話さなかった。
でも、その夜ずっと気になっていた。
洗濯機のせいにしたのは、その方が楽だったからだ。
洗濯機が原因なら、買い換えれば解決する。調べればわかる。対処が明確だ。でも「自分のにおいが洗濯物に移っているのかも」という可能性を正面から考えようとすると、何から手をつければいいのかわからなくなる。
妻は「洗濯物が」と言った。シャツ、タオル、寝具。自分が毎日触れているものが、変わってきた気がすると言った。それが洗濯機の問題でないとしたら、原因は自分の側にある。
それを認めるのに、数日かかった。
加齢臭の原因となるノネナールは、皮膚から分泌される皮脂が酸化・分解されることで生じる。
40代以降、この皮脂の酸化が起こりやすくなるとされていて、体から発生したにおいは衣類や寝具に付着しやすい。シャツの首まわりや脇の部分、枕カバーや布団に「なんとなくくすんだ感じ」が残ることがある。
洗濯をしても完全には落ちないことがある。
皮脂由来のにおいは繊維に浸透しやすく、通常の洗濯では対処しきれない場合もある。ただ、根本的には「においを発生させにくくする」ことが、洗濯物のにおいを変える上でより効果的なアプローチだ。
洗濯機を買い換えても、問題は解決しない。
それを、数日かけてようやく受け入れた。
妻はその後、「洗濯物」のことを再び言わなかった。
もう気にしていないのか、言うのをやめたのか、どちらかはわからない。でも自分は気にしたままだ。
「最近なんか違う」という感覚を、妻が感じ始めたとしたら、それはいつ頃からなのだろうと考えた。自分が40代に入ったころからだろうか。今年に入ってからだろうか。人の体は少しずつ変わるから、はっきりとした境目はない。
自分では気づかないのが、もどかしい。
加齢臭は自分の嗅覚が最も順応しているにおいで、本人には感じにくい。「何も感じないから大丈夫」は、確認にならない。
とりあえず、洗濯機の話は一度置いておくことにした。
先に自分のケアを変えてみて、それでも洗濯物のにおいが妻の気になるようなら、そのときはまた考える。
お風呂で使うものを変えた。洗い方も見直した。
妻はまだ何も言っていない。それが答えなのかどうかは、もう少し経たないとわからない。
洗濯機のせいにした日から、もう少し正直に向き合えるようになった気がしている。