打ち合わせで前のめりになるのをやめたのは、2年前くらいから
気づいたら、椅子に深く座るようになっていた。
会議で話すとき、前のめりにならないように。資料を指さすとき、腕だけ伸ばして顔は近づけないように。
意識したのがいつからかは、はっきりしない。
でも2年くらい前から、そういう癖がついている気がする。
理由を言語化しようとすると、うまくいかない。
「前のめりになると距離が近くなる」という感覚があって、その距離が近いことを、どこかで避けようとしている。それ以上はうまく説明できない。
相手に何かを言われたわけではない。
顔をそらされたとか、表情が曇ったとか、そういう明確な出来事があったわけでもない。ただ「なんとなく」が積み重なって、気づいたら体が覚えていた。
それが口臭への警戒だと自覚したのは、だいぶ後のことだ。
口の中に棲む嫌気性菌は、食べかすや死んだ細胞をエサにしてたんぱく質を分解し、揮発性硫黄化合物(VSC)を生成する。硫化水素やメチルメルカプタンがその代表で、腐卵臭や生ゴミに似たにおいの原因となる。
口臭は一定ではなく、状況で変わる。
朝起きたとき、長い会議のあと、空腹が続いたとき。口が乾燥する場面では唾液の自浄作用が落ち、菌が活発になる。朝一の打ち合わせや、食事と食事の間に続く会議が、気になる時間帯に重なっていた。
前のめりを避けるようになったのも、そういうタイミングが多い日に、何かを感じてからだと思う。
誰にも言っていない。
「口臭が気になって会議で前のめりにならないようにしている」などと、話せる相手がいない。それに、確信があるわけでもないから、言えない。「気がする」「なんとなく」という感覚のまま、2年が経った。
でも、気にしているということは、何かがあるということだと思う。
まったく根拠のない不安が、こんなに長く続くことはない。どこかで、何かを感じたから、体が覚えた。
打ち合わせで前のめりにならないことは、別に問題ではない。
でも、理由が口臭の警戒だとしたら、そっちを解消した方が自然だと思った。
姿勢を気にしながら話すのと、においを気にせず話すのとでは、集中の質が違う。内容に向き合いたい場面で、距離感の調節に意識を割いているのは、もったいない。
口腔内の環境を整えることから始めた。
何年も経った癖が一晩で消えるとは思っていないが、姿勢の理由から変えていける気がしている。