商談相手が、少しだけ顔をそらした。それだけで一日引きずった
商談の途中で、相手が少しだけ顔をそらした。
ほんの一瞬だ。誰も気にしないような、小さな動きだった。
でも自分は気づいた。
そして、その理由を何時間も考えた。
別の理由だったかもしれない。
窓の外に何か見えたのかもしれない。考えごとをしていたのかもしれない。首が痛かっただけかもしれない。そういう可能性を、順番に思い浮かべた。
でも「口臭だったかもしれない」という考えが、頭から離れなかった。
それは、ずっと前から持っている不安を、その一瞬が刺激したからだと思う。
商談の内容は、結果としてうまくいった。相手の反応も悪くなかった。でも帰り道、電車の中で、ずっとその一瞬を思い返していた。
口臭の主な原因は、口腔内の嫌気性菌が発生させる揮発性硫黄化合物(VSC)だ。
これらの菌は、舌の上や歯周ポケット、歯間などの酸素が少ない場所に棲みつき、たんぱく質を分解することで硫化水素やメチルメルカプタンを生成する。これが、特徴的な口臭のにおいにつながる。
長い商談のあとは、特にリスクが高い。
会話が続くと口が動いて唾液が出るようにも思えるが、口が乾きやすい状況でもある。エアコンの効いた室内、緊張や集中による口呼吸、昼食から時間が経った状態。そういう条件が重なりやすいのが商談の場だ。
自分では気づきにくい。
口臭は、自分の鼻が最も慣れているにおいのひとつだ。強くても「いつものこと」として認識されてしまう。だから「においていないはず」という感覚は、根拠にならない。
相手が顔をそらした理由は、結局わからない。
確かめることもできない。でも、「口臭だったかもしれない」という可能性を、今後も抱えたまま仕事をするのは嫌だと思った。
商談の内容に集中したい。相手の言葉に耳を傾けたい。でも一方で、距離感や相手の表情を口臭の観点から読んでいる自分がいる。その分だけ、仕事に使えるはずの意識が削られている。
一日引きずった、というのは、そういうことだ。
内容がうまくいっても、記憶にあるのはその一瞬だった。
口腔内のケアを改めて見直したのは、その夜からだ。
毎日の習慣に加えて、菌バランスを整えるアプローチも調べた。すぐに何かが劇的に変わるわけではないし、次の商談で相手が顔をそらさない保証もない。
でも、「対処している」という事実は、ある程度不安を静める。
一日引きずる頻度が、少しずつ減っていけばいいと思っている。