彼女が窓を開けたのは、換気のためじゃないと気づいた
彼女が部屋に来ると、しばらくしてから窓を開ける。
最初は「外の空気が好きなのかな」と思っていた。そういう人も、いる。
でも、ある日気づいた。
彼女が窓を開けるのは、自分が着替えたあとだということに。
確かめようとした。わざと着替えを後回しにして、ソファでぐだぐだしてみた。彼女は窓を開けなかった。脇汗が染みたシャツを脱いで洗濯機に向かったとき、廊下越しに窓が開く音がした。
胸のあたりに、冷たいものが落ちた。
こういう「気づき方」は、つらい。
直接言われるよりも、静かに積み重なるから。
「ちょっと気になる」と言葉にされれば、まだ対処できる。謝ることも、「調べてみる」と答えることもできる。でも相手が何も言わずに窓を開け続けているとき、自分にできるのは「もしかして」と思いながら見ていることだけだ。
確かめる方法がない。聞ける雰囲気でもない。
そのまま、半年が経った。
ワキガは、自分では気づきにくい。
これは単なる慰めの言葉ではなく、仕組み上の問題だ。人間の嗅覚は慣れやすい。長時間同じにおいの中にいると、脳がそれを「ノイズ」として処理し始める。自分の体臭は、もっとも慣れやすいにおいのひとつだ。
だから「自分はにおわない」という自覚は、においがないことの証明にならない。ただ「慣れた」だけかもしれない。
彼女が窓を開けていた理由が、自分のにおいだったとしたら。
その可能性を、長い間考えないようにしていた。
ワキガの原因は、汗腺の種類にある。
アポクリン腺という、脇の下や耳の周りに集中している汗腺が分泌する汗は、皮膚の常在菌によって分解されるとき、独特のにおいを生じる。これがワキガのにおいだ。
発汗量を減らす制汗剤は効くが、アポクリン腺そのものに働きかけるケアとは別物だ。制汗剤で汗をある程度抑えることはできても、アポクリン腺が活発な体質自体は変わらない。
制汗剤を強いものに変えてみた時期がある。一時的には効いた気がした。でも、においが完全に気にならなくなったわけではなかった。
半年後、彼女に話した。
「窓を開けるのって、もしかして自分のにおいのため?」と聞いた。
彼女はしばらく黙ってから、「うん、ちょっとね」と言った。
その「ちょっとね」に、どれだけの配慮が詰まっていたか、今ならわかる。
ケアを続けて数ヶ月後、彼女が部屋に来て窓を開けなかった日があった。何も言わなかったけれど、それだけで十分だった。
もし同じように感じているなら、まず「自分のにおいを知ること」から始めてみてほしい。変えようとする前に、確かめることが先だ。