クリニックに電話しようとして、やめたのが3回ある

夜10時過ぎ、自宅のデスク

最初に電話しようとしたのは、去年の春だったと思う。

AGAのクリニックを調べて、電話番号をメモして、昼休みに会社のビルの外に出た。番号を入力して、発信ボタンの一歩手前まで来て、やめた。理由は今考えてもうまく言語化できない。「今日じゃなくていいか」という感覚だったと思う。あるいは、電話口で何を言えばいいかわからなかったのかもしれない。「薄毛が気になります」と言う自分を、なぜか想像できなかった。

2回目は冬だった。今度はWebサイトの問い合わせフォームを開いた。名前と電話番号と、相談内容の欄。相談内容に何を書けばいいかわからなくて、ブラウザを閉じた。

3回目は、今年の春。電話じゃなくてLINEで予約できるクリニックを見つけて、LINEを開いて、公式アカウントを追加した。でもメッセージは送らなかった。そのまま今に至る。


夜のデスク

「なぜ動けないのか」を自分に問いかけることは、あまり建設的じゃないと思っている。

動けないのには理由がある。それが「めんどくさい」であっても「恥ずかしい」であっても「まだ大丈夫と思いたい」であっても、どれも正直な感覚だ。正直な感覚を「ダメだ」と否定しても、次の行動には結びつかない。

ただ、少しだけ知識として知っておくことはある。髪の毛には成長サイクルがある。成長期、退行期、休止期——この三つを繰り返しながら、髪は生えて抜けてを続けている。AGAと呼ばれる男性型脱毛症では、男性ホルモンの影響でこの成長期が短くなる。短くなると、髪は太く長く育つ前に抜けてしまう。時間が経つほど、毛根そのものが小さくなっていく。医学的には「毛包のミニチュア化」と呼ばれる状態だ。

ミニチュア化が進んだ毛根を元に戻すのは、現在の医療でも難しい。だから、早い段階で手を打てるほど、選択肢が広い。これは脅しではなく、ただの仕組みの話だ。


クリニックに電話しようとしてやめた、という体験を人に話したことはない。

話しても「じゃあかけなよ」で終わると思うから。その「なぜかけられないか」の部分が、他人には伝わりにくい。自分でもうまく言えない。でも、それは弱さじゃないと思っている。単純に、その行動のハードルが自分にとって高かっただけだ。

クリニック以外の選択肢もある。自宅で始められるものがある。毎日使うシャンプーを変えること、サプリを飲み始めること、育毛剤を頭皮に塗ること。劇的な変化を期待するべきではないかもしれないけれど、「何もしない」から「何かをしている」に変わること自体に、意味があると思っている。

電話しようとしてやめた3回は、無駄じゃなかったと思う。気になっていた、動こうとしていた、という事実は残っている。次の一歩は、電話じゃなくてもいい。